引きこもりとは、仕事や学校に行かず、家族以外の人との交流もほとんどなく、6ヶ月以上自宅に引きこもっている状態をいう。家から出られない人もいれば、外出はできるものの他の人とは全く関わらない人もいる。家の中にずっといることだけが引きこもりではなく、さまざまな状態が存在する。
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近年は大人の引きこもりの長期化によって、「8050問題」が深刻化している。「8050問題」とは、80代の親が50代の子どもの世話をすることで生じる問題である。高齢の親が子どもを見るとなると、経済的な問題などさまざまな問題が生じてくる。
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以前は若者に多かった引きこもりだが、その若者たちの引きこもりが長期化していることによって、最近では中年の引きこもりが多くなっており、社会問題となっている。そこで今回は、社会問題となっている中年の無職の引きこもりについて記事をまとめていく。
中年の無職に引きこもりが多い?
以前は若者に多かった引きこもりだが、現在は中年の無職に引きこもりが多いのだろうか。引きこもりの定義や現状、問題点などについて詳しく見ていく。
引きこもりの定義は?
引きこもりの定義について調べてみた。
様々な要因の結果として社会的参加(就学、就労、家庭外での交遊など)を回避し、原則的には6ヵ月以上にわたって概ね家庭にとどまり続けている状態を指す現象概念(他者と交わらない形での外出をしていてもよい)
厚生労働省ではこのように定義されている。一般的に、家の中から全く出ないことだけが引きこもりと思われがちだが、それだけではないようだ。外に出ていても家族以外の人間関係がなく、社会に参加していないような人も引きこもりに当てはまる。
また、内閣府では「ふだんどのくらい外出するか」という問いに対して、下記の1~4に当てはまり、6ヶ月以上その状態である人を引きこもり状態に当てはまるとしている。
- 趣味の用事のときだけ外出する
- 近所のコンビニなどには出かける
- 自室からは出るが、家からは出ない
- 自室からほとんど出ない
ただし、仕事をしている人や身体的な病気が原因の人などは当てはまらないとしている。
現状は?
内閣府が行なった「平成30年度調査」によると、全国の満40歳から満64歳までのうち、人口の1.45%に当たるおよそ61.3万人が引きこもりの状態であると推計された。他にもこの調査で分かった点についてまとめる。
- 専業主婦や家事手伝いで引きこもり状態の人も存在する
- 引きこもり状態になって7年以上の人が半数近くもいる
- 初めて引きこもり状態になった年齢が全年齢層に大きな偏りがない
- 若い世代と異なり、退職したことがきっかけで引きこもり状態になった人が多い
このようなことが平成30年度調査によって明らかになっている。専業主婦や家事手伝いで引きこもり状態の人がいることや退職したことがきっかけで引きこもり状態となってしまった人が多いことには驚きである。
問題点は?
生活困窮者の相談窓口を対象に、40 歳以上の引きこもり事例に関する対応状況を調べてみた。厚生労働省が発表している資料をもとに、「本人が抱えている問題」と「両親が抱える課題」を順番にまとめていく。
本人が抱えている問題
- 人間関係やコミュニケーションの問題
- 就職活動や仕事への定着の困難
- 精神的な疾病や障害に関する問題
- 経済的に余裕がない、または困窮
- 不登校を経験している
- 身体的な疾病・障害に関する問題
- 支出面の問題
- 家族への DVや虐待(過去を含む)
- 住まいに関する問題
両親が抱える課題
- 経済的に余裕がない、または困窮
- 人間関係やコミュニケーションの問題
- 精神的な疾病や障害に関する問題
- 支出面の問題
- 身体的な疾病や障害に関する問題
50代に多い?
前述したように、内閣府の調査によると、40歳〜64歳はおよそ61.3万人が引きこもりの状態であると推計されている。15~39歳では推計約54万人であり、40〜60代に引きこもりが多いことが分かる。
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近年は大人の引きこもりの長期化によって、「8050問題」が深刻化している。「8050問題」とは、80代の親が50代の子どもの世話をすることで生じる問題である。このような問題が生じていることもあり、引きこもりは50代に多いと言えるだろう。
居場所がない?
引きこもりになってしまう一因に、「居場所がない」ということが挙げられるだろう。確かに居場所がなければ、外に出る意味もなくなってしまい、家にいる方が楽と感じてしまう。その結果、引きこもりとなる。
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こうした引きこもりのために、本人や家族が安心して出かけることができ、受け入れられる「居場所」を作ることが大切である。一人ではないという安心感と未来を生きる希望を生み出すことができる。
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厚生労働省が全国の先駆的な居場所づくりの取り組みについてまとめており、3タイプに分けて紹介していく。
地域共生型の居場所
自治体や様々な地域資源と連携して、地域で「共に支え合う関係」として、地域共生型の居場所づくりを行なっている。地域づくりや情報のプラットフォームとしての役割も一緒に担っている。
家族会が協働する居場所
家族会が行う親や本人、きょうだいの居場所である。年齢や障害の有無を問わず、家族同士が長く集える場となり、家族の孤立を防ぐ地域の受け皿にもなっている。
当事者を主体とした居場所
世話人は当事者や経験者が務め、上下関係などの緊張感がほとんどないのも特徴である。当事者の視点から、当事者が望んでいる居場所を創出している。
中年の無職の引きこもりについて
現在は中年の無職に引きこもりが多いことが分かった。引きこもりになってしまった中年の原因や末路、支援について解説していく。また、求人募集やボランティアなどの社会に参加する方法があるのかについても詳しくみていく。
引きこもりになった中年の原因は?
内閣府の調査より、40~64歳の中年が引きこもりになったきっかけについてまとめていく。
- 退職した 36.2%
- 人間関係がうまくいかなかった 21.3%
- 病気 21.3%
- 職場に馴染めなかった 19.1%
- 就職活動がうまくいかなかった 6.4%
退職したことが引きこもりの原因となっていることが多いようだ。確かに、今まで何十年も仕事をしてきた日常がなくなれば、何をすれば良いのか分からないという人もいるだろうし、今まで仕事ばかりしてきた反動で何もしたくない人もいるだろう。そう考えると、退職後に引きこもりとなってしまうことにも頷ける。
また、40~64歳の引きこもりの中年のうち、57%が40歳以降に引きこもりを始めており、「70%以上が40歳以上」とする自治体の調査結果もある。引きこもりの中年のなかでも、早いうちから引きこもっている人が多いことがわかる。人間関係や仕事関係でうまくいかなくて段々と嫌になり、社会との関わりを絶ってしまったのだろう。
理由は様々あるが、引きこもりになった中年の一番多い原因は退職したことであった。
引きこもりの中年の末路は?
引きこもりの中年の末路について考えてみた。
高齢化
中年の引きこもりが長引けば、高齢者の引きこもりにへと発展していく。高齢になればなるほど、社会に復帰することは難しくなる。企業にとってもできる限り知識を教え込める若い人を雇いたいだろう。また、引きこもりを長く続けてしまうことで、職歴に長い空白期間ができてしまう。そうなると、余計に雇ってくれず働くことが難しいだろう。
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仕事の面だけでなく、生活の面にも問題が生じる。独身の中年が引きこもりを長い間続けてしまうと、パートナーと出会う機会を失ったまま高齢者となってしまう。高齢となると、なかなかパートナーを探すのが難しい。そうなると結婚して家庭を築くことができず、天涯孤独な人生となってしまうだろう。
親の死亡
働いていない引きこもりであれば、生活費は全て親が負担しているだろう。親が定年退職すれば、年金で暮らすしかなくなり、働いていた頃のような生活を維持することが難しい。また、親が亡くなってしまえば、支えてくれる人がいなくなる。生活保護を受けるにしても条件が厳しいため、必ず受給できるとも限らない。
ホームレス
親が亡くなり、支えてくれる人がいなくなれば、最悪の場合ホームレスになることも考えられる。アパートやマンションを借りている場合は家賃を、持ち家の場合は固定資産税を支払う必要がある。支払いの滞納が続いてしまうと、差し押さえによって家を追い出される可能性がある。支えてくれる人や住む場所がなくなれば、ホームレスになる可能性も十分にあるだろう。
孤独死
親など支えてくれる人がいなくなり、人とのつながりが全くなければ、最悪の場合孤独死となってしまうことも考えられる。もし、1人家の中で倒れてしまい、助けを呼べるような人がいなければ、そのまま1人でなくなってしまう場合がある。死ぬときに自分のことを知ってる人がいない、自分のことを看取ってくれる人がいないのはとても悲しい。
4つの末路について考えてきたが、どれも大変悲しいものである。このような末路を迎えたくないものだ。
引きこもりの中年への支援は?
厚生労働省では引きこもり支援推進事業を行っている。引きこもりに特化した専門的な相談窓口として、「ひきこもり地域支援センター」の整備を進めており、全ての都道府県及び指定都市に設置している。また令和4年度からは、「ひきこもり地域支援センター」の設置や「ひきこもり支援ステーション事業」を開始している。
引きこもりでもボランティアはできる?
引きこもりでもボランティア活動をすることは可能である。なかなか一歩踏み出すのが難しいだろうが、ボランティア活動をするのは気持ち良いものだ。引きこもりの人を対象としたボランティアの募集もあるので、普通のボランティア活動よりはきっとやりやすいだろう。同じ境遇の人にも出会えるだろうし、そこから社会へのつながりを築くこともできるだろう。
求人募集はある?
引きこもりを支援する求人はいくつかある。しかし、「引きこもり歓迎」といった求人募集はほとんど見つからない。やはり、社会人経験にブランクがあることやまた引きこもりとなってしまって仕事に来なくなるのではないかという懸念が原因だろう。
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需要の多い業界であれば、就職はしやすいだろう。例えば、介護やIT業界などである。介護業界はこれからの高齢化社会において多くの人材が必要であり、IT業界は急速に成長している業界であるので、人材不足である。
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他にも、在宅でできる求人もある。完全在宅勤務であれば、働くことへのハードルも下がるだろう。在宅での仕事を経て、徐々に社会へ出れるようになった後に外で働くこともおすすめである。例えば、クラウドワークスやランサーズ、ココナラなどがあるので、ぜひチェックしてみてほしい。
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引きこもりを支援する求人もあるが、こうした需要の高い業界や在宅での仕事もおすすめである。
引きこもりのためのコミュニティは?
引きこもりのためのコミュニティは存在する。今回は2つ紹介していく。1つ目は「COMOLY」である。引きこもり当事者のためのワークやコミュニティを提供することで安心してつながることができるプラットフォームである。イベントをオンラインとオフラインで開催されており、ユーザーとサポーターを繋ぐことを目的としている。
2つ目は「ひきこもり VOICE STATION」である。厚生労働省が運営しており、全国のひきこもり当事者や家族、支援者の声をみんなにシェアするためのWEBコミュニティだ。同じ境遇の人の話を聞くことができるので、共感できることがたくさんあるだろう。
npoの引きこもり支援は?
npoでは引きこもりの支援も行っている。例えば、共同生活寮などがある。共同生活寮は1〜6人部屋で集団生活を送ることや自立した一人暮らしをサポートすることが目的である。決められた時間で行動するため、引きこもりで不規則となってしまった生活を正すこともできる。共同生活や仕事体験、社会参加体験を通じて、自立を目指していく。
家庭内で解決することが難しいようであれば、npoの引きこもり支援を受けるのが良いだろう。
暴力的な施設がある?
引きこもりの自立支援をうたった暴力的な施設もあるそうだ。
東洋経済オンラインの記事です。ひきこもり当事者の自立支援をうたう引き出し業者によって無理矢理自宅から連れ出された男性。フルタイムで働かされていたのに、寮費10万円などを天引きされると手取りがマイナスになる月もあったそうです。給与からの天引きは原則違法です。https://t.co/dpmClQ3oQV
— 藤田和恵 (@RM2cRkuYhmNMz1B) February 9, 2023
引きこもりの自立支援のために業者によって無理やり自宅から連れ出されたそうだ。フルタイムで働かされた上に、寮費によって手取りがマイナスになった月もあったとはひどい話である。
精神科病院に賠償命令、ひきこもり支援業者を通じて「医療保護入院」させられた男性が勝訴…東京地裁(弁護士ドットコムニュース)#Yahooニュースhttps://t.co/L0YRcB7cWu
これは大きなニュースだ…支援業者とやらも問題だし、そもそも医保入院なのに指定医の診察なしってすごい話だよ…— Jill@規制防止に低浮上 (@Noirfennec) November 16, 2022
ひきこもりの自立支援と称する「引き出し業者」によって、本人の同意なく精神科病院に医療保護入院させられた例もあるそうだ。指定医の診察もなく、さらに、本人の同意なく医療情報を引き出し業者に伝えていたそうだ。極めて悪質な業者である。
このように、引きこもりの自立支援をうたった暴力的な施設も存在するようだ。
総括:中年の無職の引きこもりについて
この記事のポイントをまとめると、
- 外に出ていても家族以外の人間関係がなく、社会に参加していないような人も引きこもりに当てはまる
- 全国の満40歳から満64歳までのうち、およそ61.3万人が引きこもり
- 大人の引きこもりの長期化によって、「8050問題」が深刻化
- 40~64歳の引きこもりの中年は「退職したこと」が原因となっていることが多い
- 厚生労働省では引きこもり支援推進事業を行っている
- 需要の高い業界や在宅での仕事もおすすめ
- 引きこもりの自立支援をうたった暴力的な施設も存在する
今回は中年の無職の引きこもりについて解説してきた。以前は若者に多かった引きこもりが最近では中年に多くなっており、社会問題となっている。若い世代とは異なり、退職したことがきっかけで引きこもり状態になった人が多かった。引きこもり本人が抱えている問題だけでなく、両親が抱えている課題が多いこともわかった。
引きこもりのための居場所づくりや自立支援を行っていくことが大切である。そうでなければ、引きこもりの中年の末路でも述べたように、高齢化やホームレス、孤独死などに繋がりかねない。
中年の無職の引きこもりについて悩んでいる方に、この記事が役立ってくれたら嬉しい。