2023年2月、上野動物園からパンダのシャンシャンが中国へと返還された。動物園を旅立つ日には多くのパンダファンが詰めかけ、シャンシャンの乗ったトラックはたくさんの人に見送られて空港へと向かった。
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空港でも、カメラを持った人々が屋上テラスからシャンシャンの乗った飛行機を見送り、中にはシャンシャンの名前を呼びながら涙を流す人の姿もあった。
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ここまで人々を魅了するパンダという動物だが、野生のパンダは中国の奥地のみに生息するため、いまだ生態が不明な点も多い。パンダとはいったいどんな動物なのかを詳しく調べてみた。
実は狂暴?パンダの意外な生態
タケを食べ、タイヤのブランコで遊び、疲れたら眠るというイメージのパンダだが、実は狂暴な一面もあるのだろうか?
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野生での生態がまだ完全には分かっていないパンダであるが、パンダが一体どういう生き物なのか、意外と知らない一面もあるのかもしれない。ここでは、パンダの基本的な情報や生態についてまとめてみた。
パンダは何科の生き物?
パンダは分類上「哺乳綱食肉目クマ科」に属する、クマの仲間である。中国名を大熊猫、日本名をジャイアントパンダと言う。タケ・ササを主食としていることから英語名ではBamboo BearまたはGiant Pandaと呼ばれる。
野生のパンダの生息地はどこ?
野生のパンダは中国南西部の高地(1300~3500m)山岳地帯の森林に生息している。生息数が最も多い地方は四川省で、生息密度が最も高い地方は陝西省である。
古くは、パンダはもっと低地の広範囲に生活していた形跡が発見されているが、天敵などから逃れながらどんどん奥地へと移動したようである。また、近代に入り中国の人口が増加するにつれ、パンダの住んでいた場所が次々に開発されていったことで、パンダの生息地域が急速に減少したと考えられている。
パンダの性格は?
パンダは非常におっとりとしたおとなしい性格をしており、物音がすると逃げ出すような臆病な面がある。人間に出会ったとしても、襲ってくることはほとんどないと考えられる。
ちなみに、動物園で飼育されているパンダはそれぞれ個性があり、いろんな性格のパンダがいる。たとえば元気でおてんばな子や、優しくマイペースな子、食いしん坊な子など。
パンダはどんな食べ物を食べる?肉食も?
パンダの主食はタケである。野生のパンダは昆虫やネズミなどの小動物を食べることもあるという。元々クマ科で雑食のはずであるが、天敵から逃れて高山地帯へと生息地を移していく中で、タケは年中手に入りどこにでも生えていること、タケを食べる動物が他にいないことなどから、パンダの主食として選ばれたのではないかとされている。
タケノコも好んで食べるが、タケノコの季節とパンダの繁殖期は合致しており、交尾と子育てで体力が必要なこの時期により栄養素の高いタケノコを食べて体重を増やしている。
参考:Science Portal Asia Pacific パンダが竹を食べるのはなぜ?長年の謎がついに解明
パンダの鳴き声は?
パンダは様々な鳴き声を出すことができる動物である。大人のパンダはヤギの鳴き声に似た「メエエエ」といった声や、馬の鳴き声に似た「ヒヒーーン」といった声で鳴くことがある。また、興奮すると「ワン!」という犬によく似た声で鳴く。赤ちゃんの頃は母親を呼ぶために頻繁に鳴くが、その時の鳴き声は猫のような「ニャアー」という声だ。
また、繁殖期の野生の雄パンダは甲高い声で雌にアピールし、雌もその鳴き声を聞き分けて好みの雄を識別しているという研究結果もある。
参考:Scientific Reports 竹林における音の伝達とジャイアントパンダ ( Ailuropoda melanoleuca )の情報伝達への影響
パンダの寿命は?
パンダの寿命は野生で20年くらいと言われている。また、動物園などの飼育下では30年くらいまで寿命は伸びる。世界最高齢のジャイアントパンダは、香港の遊園地で飼育されていた雌のパンダで36歳。上野動物園で一番長生きしたパンダは雄のフェイフェイ-飛飛(Fei Fei)で、1967年生まれ(推定)、1982年来園。1994年に推定27歳で息を引き取った。
狂暴?穏やか?パンダという生き物
これまで述べたようなパンダの基本的な情報を踏まえて、パンダという生き物について深く掘り下げていきたいと思う。
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パンダは絶滅が危ぶまれるほど希少な動物で、その生態についてもまだ明らかになっていない部分も多い。野生のパンダを守っていくためには我々にできることは何かあるのだろうか。
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ここでは、パンダのおかれている状況とパンダを守るための取り組みについて詳しく解説していく。
パンダが絶滅危惧種から危急種へ引き下げられた理由とは
パンダは以前絶滅危惧種(EN)としてレッドリスト(絶滅のおそれのある世界の野生生物のリスト)に記載されていたが、2016年に危急種(VU)へと引き下げられている。絶滅危惧種と危急種の違いはどこにあるのだろうか。また、どうして危急種へと引き下げられたのだろうか。以下に詳しく解説していく。
レッドリストとは
レッドリストとは、絶滅の恐れのある野生生物のリストで、国際的には国際自然保護連合(IUCN)が作成している。その中で、日本に生息する野生生物については国内の専門家がIUCNの評価基準を参考に5年ごとにリストを見直し、環境省が公表している。
レッドリストに記載されている動物について詳しい生息状況などをまとめたものは「レッドデータブック」としておよそ10年ごとに刊行されている。
絶滅危惧種から危急種へ
絶滅危惧種とはレッドリスト内で絶滅の恐れが高いものの順にカテゴリー分けされたものの中で、絶滅、野生絶滅の次に位置する絶滅の危機に瀕している種のことである。
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日本では近絶滅種、絶滅危惧種、危急種の3つを合わせて絶滅危惧種と呼称されることが多いが、レッドリスト内ではその危険度に応じて三段階に分類されている。パンダは絶滅危惧種(EN)に分類されていたが、2016年に危急種(VU)へと引き下げられた。
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当時の調査で野生パンダの数が10年前より17%ほど増え、1864頭に達していた。そのためIUCNは中国政府がパンダの保護に対して積極的に努力しており、結果減少傾向がゆるやかになっていると評価し、危急種へとランクが引き下げられたのであった。
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とは言え、いまだに絶滅の危機に瀕している動物であることは間違いないため、適切な保護活動が重要であると考えられている。
パンダのマークのWWFとはどんな団体?
パンダのロゴマークで知られるWWFは世界中にネットワークがある民間団体で、「人と自然が調和して生きられる未来」を目指し、野生動物と自然を守ることを大きな使命として活動している。
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1961年に設立され、現在では世界で7000人のスタッフが従事し100か国以上で活躍している。
WWFのシンボルマークがパンダのロゴになったきっかけ
WWFのシンボルマークがパンダのロゴになったきっかけは、設立のころにロンドンの動物園にジャイアントパンダがやってきたことだった。WWFの創設メンバーは世界中の人に活動を知ってもらうためには愛されるシンボルが必要だと考えており、ジャイアントパンダに白羽の矢が立ったのだった。
1986年には活動が多岐にわたってきたことにも合わせてロゴマークをマイナーチェンジし、名称も「World Wildlife Fund(世界野生生物基金)」から「World Wide Fund(世界自然保護基金)」へと変更された。
当初は絶滅危機にある野生動物を守る目的で設立されたWWFだったが、世界情勢の変化とともに動物を取り巻く環境も大きく変わってきた。そのため、希少動物の保護から動物を取り巻く人々の暮らし、海や森などの環境問題、さらには温暖化の問題についても活動テーマとなり、広く環境保全のために活動を続けている。
WWFの公式サイトでは、パンダをはじめ希少な野生動物たちの生態系を守るための取り組みや、私たちにできることについても知ることができるので、一度目を通してみてはいかがだろうか。
動物園のパンダの生態
野生と比べ、動物園でのパンダはどのように暮らしているのか。動物園のパンダの生態について詳しく見ていこう。
上野公園では堀を隔ててパンダを直接観察できる屋外放飼場や、ガラスごしにパンダの姿を観察できる空調完備の室内展示室などでパンダの姿を見ることができる。野生のパンダは餌を食べている時間以外はほぼ寝ているため、動物園でも寝ている姿を見ることが多い。
ところで、動物園のパンダはタケ・ササ以外のものも食べているのはご存知だろうか。主食はタケだが、とうもろこしの粉にビタミン・ミネラル類を合わせて水に溶いて蒸した通称パンダダンゴや、ミルクがゆ、リンゴやカキなどの果物、サツマイモやニンジンなども補助食として食べさせているそうだ。
パンダは実は怖い生き物?
動物園のアイドルで見る人を癒やしてくれる愛嬌のあるパンダだが、実は怖い生き物でもあるかもしれない。中国では動物園でパンダが見物客の上着をすごい力で引っ張り、あわや大けがにという動画が記録されている。
この時は、客の上着に何かパンダが好む匂いがあったのだろうか、上着を檻の中に引きずりこんだ後は満足そうに上着をスリスリしているパンダの姿が撮影されている。
中国の動物園ではほかにもパンダが人間を襲うという事件が発生している。内容は、酔っぱらいの客が檻を乗り越えてパンダの飼育スペースに入りこみ、抱きつこうとしたところ驚いたパンダから脚をかまれたというもの。
これはどう考えても人間の自業自得であるが、パンダもクマ科の大型動物であり、人間が不用意に近づくと危険な目に合うことも十分考えられるということだ。まずそのような機会はないかもしれないが、野生のパンダに出会った場合にはそのことを肝に銘じておこう。
総括:実は狂暴?パンダの意外な生態
この記事のポイントをまとめると
中国の奥地3つの省のみで生息しているパンダ
- 中国南西部の山岳地帯の森林に生息
- おっとりしていてマイペースな性格
- 野生のパンダはササ・タケ・タケノコなどが主食
- 動物園のパンダの好物「パンダダンゴ」
- パンダの鳴き声はヤギ、馬、犬などに似ている
- パンダの寿命は野生で20年、飼育下で30年程度
パンダはレッドリスト上では危急種に分類される
- 保護の実績が認められ絶滅危惧種から危急種へと1段階引き下げられた
- WWFのシンボルマークはパンダ
- WWFでは野生動物の保護や環境問題に取り組んでいる
- 動物園でのパンダの生態 人を襲った事例も
愛らしいしぐさと見た目で大人気のパンダだが、鳴き声が変わっていたりタケ・ササ以外のものも食べているなど、実は意外な一面もあることが分かった。動物園で可愛いパンダを鑑賞するためにも、野生のパンダの生息地を守り、環境を守っていく必要がある。我々にできる取り組みもあるので、まずは現在のパンダが置かれている状況を知り、一人一人が環境について考えていくことが大事ではないだろうか。