動物園の飼育員になる道筋はいくつかあるが、どの進路がいいのかは悩むところだ。最近は以前にはなかった動物専門の専門学校もあるので、その分進路の幅も広がっているように感じる。
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この記事では、動物園の飼育員になるための進路選びや、飼育員に必要な資格、仕事内容や年収などについて詳しく説明している。
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これから動物園の飼育員を目指そうとしている中高生の子供たちやその保護者の方に、是非見ていただきたい内容となっている。
動物園の飼育員になるには?高校卒業後の進路は?
ここでは、動物園の飼育員になるための高校卒業後の進路について解説していく。
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自分の行きたい道に進むためにどの進学先がいいのかは人それぞれではあるが、選択肢を知っておくことで将来への道が見えてくるかもしれない。
専門学校を出て動物園の飼育員になるには
動物園の飼育員になるための専門学校は現在日本国内に40校以上ある。中には学校で動物を飼育しており、実際に飼育を体験することで実際の仕事現場に近い内容を実践的に学ぶことができる。
専門学校のメリットは
- 就職後にすぐに活かせる技能を2年程度で身につけられる
- 目指す専門分野の求人情報が集まりやすい
デメリットは
- 進路の変更が難しい
- 専門学校卒業だと受けられない企業もある
ということなどが考えられる。
以下に代表的な動物系の専門学校をいくつか紹介していく。
TCA東京ECO動物海洋専門学校
「ふれあい動物園」を学生が主体になって運営するなど、実践的な学びが得られる。2年制~4年制まで専攻が分かれていて動物園の飼育スタッフからマネジメント、動物自然環境業界のプロフェッショナルまでを目指せる。
神戸動植物環境専門学校
生命科学科と動物看護師学科があり、コースゼミ制度でさらに学びたい科目を深く勉強できる。
学校内にペットサロン、手術実習室、水族館など備えていて、現場に即した学習ができる。合わせて90種130個体を超える小動物、鳥類、ハ虫類を飼育管理している。
東京動物専門学校
千葉県富里にあるキャンパスには、230種類以上の動物を飼育しておりまるで動物園。1年次は基礎を2年次は専門分野に分かれてさらに実践的な実習を行うことで、即戦力を養う。
全国各地の実習先では1か月間のインターンシップ研修を行い、そこから内定につながることも多い。
大学を出て動物園の飼育員になるには
動物園の飼育員になりたければ、大学に行って必要な分野を学ぶこともできる。農学部や生物資源学部、獣医学部などが飼育員に関連する学部になる。
しかしながら大学の場合は選択肢の幅が広いため、必ずしもこの学部卒でないと飼育員になれないといった縛りはない。
その代わり、大学時代に学んだことを職業にどう生かせるかを理解し、いろんな経験を積んでおくことも大事ではないかと思われる。
飼育員のインタビューなどを見ると、多くの人が大学を卒業して動物園の飼育員になっているようだ。
大学のメリットは
- 専門分野だけでなく幅広く勉強できる
- 入学時に希望した分野と違う進路も可能
- 4年間かけてじっくりと学べる
デメリットは
- 専門学校に比べると入学が難しい
- 私立大学の場合は金銭的負担が大きい
ということがあるだろう。
高校卒業後に飼育員になるには
各動物園の募集要項によるが、高校卒業のみの資格でも飼育員として働けるところはある。インターネットの求人サイトでも学歴不問で掲載されている求人情報はいくつか見つけられた。
動物に関する高校ということだと農業高校がある。畜産がメインだが近年では動物飼育を専門に学べる高校もあるので、いくつか紹介していく。
東京都立園芸高等学校 動物科
愛玩動物、環境関連などの資格取得が目指せて、動物園でインターンシップ研修などもある。
1学年では園芸に関することから動物の飼育まで基礎的な内容を学び、2学年からは「動物愛護類型」と「動物環境類型」を選び、より専門的な学習を行っている。
埼玉県立いずみ高等学校 生物サイエンス科
生命科学や生態学などを学習し、自然環境や環境問題まで幅広く生命現象を学んでいく。野鳥観察や昆虫採集、ラットの解剖実習など他の高校にはないカリキュラムが特色である。
兵庫県立農業高等学校 動物科学科
牛・馬・犬・鷹など14種類の動物を飼育しており、動物の実験実習を通して生命の尊さを学ぶことができる。
学校で飼育しているハリスホークとミミズクのバードショーを生徒自ら行い、動物園のイベントなどで観客に喜ばれている。
飼育員になるには 公務員の場合
動物園には公立の施設も多い。そのような施設では職員はその動物園を管轄する県や市の職員となる。
公立の動物園への就職を希望する場合は、まず公務員試験に合格してから配属先を動物園に希望を出すことになるが、必ずしも希望通り配属されるとは限らない。
公務員になるには、公務員専門学校や大学を卒業してから試験を受けるというパターンが一番多いだろう。
飼育員になるために必要な資格とは?
飼育員になるための資格というのは特にないが、持っているといい資格はいくつかあるので紹介していこう。
普通自動車免許(MT)
動物園では日常的に餌を運搬したり動物たちを移動させたりするのに園内で車を利用しているため、普通自動車免許は早めに取得しておいた方がいい。
仕事現場での車両はどんなものになるかが分からないため、AT限定ではないほうが推奨される。
愛玩動物飼養管理士
愛玩動物飼養管理士とは、「動物の愛護及び管理に関する法律」の趣旨に基づき、愛玩動物(ペット)の愛護及び適正飼養管理の普及啓発活動などを行うために必要な知識・技能を、公益社団法人日本愛玩動物協会の通信教育によって体系的に修め、所定の試験に合格し、協会より認定登録された者をいいます。 (公益社団法人日本愛玩動物協会公式サイトより引用)
有資格者は全国に21万人で、ペットショップや動物病院のスタッフなど動物に関する職業の人から、ペットの飼い主まで幅広く取得されている資格である。
ペットの飼い方や習性、動物を飼う上での心構えなどを多くの人に広めるペットのスペシャリストを養成する目的で作られたものである。
飼い主やペット業界はもちろんのこと観光産業や介護福祉分野などでも活用されている。
飼育技師
公益社団法人日本動物園水族館協会が実施している民間資格。動物園飼育技師と水族館飼育技師に分かれている。
受験資格は「日本動物園水族館協会に加盟している動物園と水族館(会員園館)で、2年以上飼育実務に従事している者」となっており、飼育員の質の向上を図る目的の資格といえる。
学芸員
学芸員とは博物館において資料の収集や展示を行う専門の職員のことだ。日本の多くの動物園では学芸員の配置は必須ではないのだが、動物の展示などは学芸員の仕事とも重なるため持っていて損はない資格といえる。
ただ、大学で文部科学省令の定める「博物館に関する科目」の単位を修得し博物館や美術館への実習もあるため、授業数で言うと10近く増えることになる。
学芸員の資格を大学で取ろうとするならば、それなりの覚悟を持って臨む必要がある。
動物園の飼育員になるには?高校生のうちから知っておきたい知識
動物園の飼育員になるためには、飼育員の仕事内容や年収についても知っておいた方がいいだろう。
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具体的にどういったことを行っているのか、給料はいくらくらいなのかを知ることで、将来へのビジョンが明確になり、自分のやりたいことや方向性が定まることもあるだろう。
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ぜひ飼育員についての知識を増やして、今まで以上に飼育員という職業への理解が深まれば何よりである。
動物園の飼育員の仕事内容 イラストと解説
ここでは動物園の飼育員の仕事内容について、イラストを交えながら解説していく。
動物園の飼育員は珍しい動物を間近で見られて楽しそうというイメージがあるだろうが、実際にはどういった仕事をやっているのだろうか。
普段あまり見ることのできないバックヤードについても解説していくので、動物園の飼育員の仕事内容について詳しく知りたい方は是非チェックしてみてほしい。
動物の飼育に関する仕事
動物園の飼育員の仕事内容として一番基本になるものが、動物の飼育である。これらの仕事は毎日365日欠かさずにやる必要がある。毎日のルーティンであり非常に大事な仕事だ。
詳しい内容は以下のようなものがあげられる。
- 動物の健康観察
- 動物舎や運動場の掃除
- 餌を用意して与える
- 病気の予防や看病
- 飼育記録や日報を記す
以下で順番に見ていこう。
動物の健康観察
毎朝必ず担当の動物の健康観察を行う。餌を食べているか、糞の状態、毛のツヤや皮膚のけがなどはないか、いつもと違う行動はないかなどをもとに健康チェックを行い、異常があれば獣医師へ連絡をして診てもらう。
動物舎の掃除
動物を運動場へと移動させ、健康維持のための適度な運動をさせる。その間に空になった動物舎を掃除する。
掃除の際に糞があれば観察して健康を確認する。掃除の際に塀や檻、柵などが壊れていないかをチェックし、異常があれば修理することもある。
餌を用意して与える
動物の餌を準備し、与える。1日に1~2回餌の時間がある。担当している動物の健康状態なども見ながら餌の飼料を配合して与えている。
最近では、ペレットといわれる固形飼料が普及していて餌づくりが楽になった部分もある。とはいえ、動物たちの健康に直結することであるため油断はできない仕事である。
病気の予防や看病
万一動物が病気になった場合は獣医師とともに看病にあたることになる。もちろんその前に病気にならないように予防接種を行うことなども日々の世話の中で必要なことである。
飼育記録や日報を記す
1日の終わりには、動物の様子やえさの量などを記載する飼育記録を書き記す。自分以外の担当の人にも分かりやすいように記入する必要がある。
特に動物の身体にいつもと違うことがあった場合は細かく記録しておくことで、あとから動物が体調不良の時などに原因が分かることもある。
動物の種の保存
動物の飼育以外にも、動物園の飼育員の仕事として重要なのが、動物の種の保存である。動物園には絶滅の危機にある希少動物も多いため、種の保存ということも動物園の重要な役割となっている。
具体的には
- 繁殖や出産の手伝い
- 動物の赤ちゃんの人工飼育
などの仕事がある。以下で詳しく説明しよう。
繁殖や出産の手伝い
動物園の動物たちは自然界と異なる環境で生活しているため、そのままでは繁殖しないで途絶えてしまうこともある。そのため人工授精などで繁殖を手伝い、妊娠出産へとつなげる努力をしているケースもある。
一例として、2021年に横浜市旭区の「よこはま動物園ズーラシア」で国の天然記念物であるツシマヤマネコの人工授精による繁殖に国内で初めて成功した。
この時母親の母乳があまり出なかったため、生まれた翌日から飼育員が人工飼育を行い、その後も飼育員によって育てられた。
そのため警戒心の強いツシマヤマネコには珍しく人を怖がることなく好奇心旺盛な個体に成長したという。
「ひい」と名付けられたこのツシマヤマネコは、その後名古屋市東山動物園を経て、現在は福岡市動物園で非公開で飼育されている。
飼育環境の整備
飼育環境の整備も動物園の飼育員の大事な仕事である。動物たちが安全に施設内で飼育されるためには欠かせない作業だ。
動物が自然に近い状態で暮らすための工夫や、来園者に動物の生態を自然に近い状態で見てもらうための展示方法を考えて環境整備している。
旭川市旭山動物園が始めた「行動展示」は、動物の動きを引き出すために水槽の形を工夫したりするなどして、より動物の生態を来園者に近くで見てもらえるように創意工夫されている。
動物園での接客やイベント企画運営
飼育員の仕事の中には、動物園を訪れた人に動物の生態や特徴を説明したり、動物園で行われているイベントを企画運営したりすることも含まれる場合がある。
動物園の運営方針などにもよるが
- 来園者への接客
- 動物園のイベント企画運営
- 団体客への自然教室等の運営
などが飼育員によって行われている動物園もある。
イベントの中には動物が行うショーもあり、担当の飼育員が長い時間をかけて動物たちをトレーニングし、その成果を来園者に見てもらい楽しんでもらう。
イベントやショーの内容についても飼育員で会議をし、どうやったら来園者に動物をアピールできるか日々考えている。
動物園の飼育員 給料・年収は?
ここまで動物園の飼育員の仕事内容を見てきたが、飼育員には動物園内の様々な業務があり、直接動物にかかわること以外にも多岐にわたることが分かった。
そんな飼育員の給料・年収はどれくらいだろうか。求人ボックスによると飼育員の年収の平均は309万円で、平均年収に比べると低いということが分かった。
正社員の給料分布から見ると289~319万円がボリュームゾーンであり、全体の給与幅は260〜494万円で比較的狭い範囲にある。
動物園の飼育員 求人情報はどこで?
求人情報はインターネット上で多く見られた。正社員・アルバイトともに求人情報は掲載されているが、求人ボックスでのアルバイトの募集は2023年2月を境に約2倍になっている。
コロナ禍であったこれまでと比べると、人出が増えることが予想されているのではないだろうか。
また、大学や専門学校で動物にかかわる学科を専攻していた場合は、学校の就職課に求人の募集が来ることもあると思われる。
最近では、各動物園がSNSに力を入れており、ほとんどの動物園がツイッターやインスタグラムで情報発信をしているため、これらのSNSも常時チェックしておくと欠員が出たときなどに求人情報が掲載される可能性もある。
総括:動物園の飼育員になるには 高校卒業後の進路
この記事をまとめると
- 動物園の飼育員になるには?
- 高校卒業後は「専門学校」「大学」「そのまま就職」の3パターン
- それぞれメリットデメリットあり
- 農業高校など動物飼育を専門に学べる高校もある
- 公務員の飼育員になるには専門か大学
他にはこんなこともまとめてある
- 飼育員になるために必要な資格とは
- 普通自動車免許(MT)や愛玩動物飼養管理士など
- 動物園の飼育員に関する知識
- 動物園の飼育員の仕事内容
- 動物飼育に関する仕事 動物の種の保存など
- 給料・年収は平均より少し低い
- 求人情報はSNSなども利用すべき
子どもの頃の憧れの職業だった動物園の飼育員だが、実際のところは仕事も多岐にわたり忙しく収入は平均より少し低いくらいだということが分かった。
進路は専門学校か大学に行く人が多いが、実際に希望する職場に行ける人は限られているということも見えてきた。
動物園の飼育員は待遇が思ったほどよくなかったり、道のりはなかなか大変だが、それを補って余りある魅力のある職業なのだということも分かった。
本当にこの職業を目指したいと思ったならばぜひ頑張って、目の前の今できることから実行に移してほしいと思う。